最近よく、退職エントリが良い悪いといった記事をよくネットで見かけるので、私なりの考えも書いてみようと思いました。
一点注意ですが、これは私の主観的な考えです。客観的な一般論として押し付けるものではないので、その点ご注意ください。
時々ネットで上がる議論の一つに「技術者がよく書く退職エントリは是か非か」というものがあります。色々な意見はあると思うのですが、総合的に考えてみると「強制はしないけど、書きたい人はどんどん書いたほうがいいんじゃないか」というのが私の今の考えです。その考えの詳細は以下の長文を読んでみてください。
そもそも転職の理由なんて一つなんかじゃない、本当に大量の理由が積み重なったところに、とある何かのキッカケが降りかかってきてふと腰をあげる、そういうものだと思います。もちろん「今逃げないとヤラレル」といった切迫したブラックな状況に置かれている事も考えられますが、それは別として。
私は転職理由にポジティブもネガティブも無いと考えます。というかポジティブとネガティブは互いに光と影の存在で、一つの理由はどちらにも解釈できる。例えば「次の会社で新たなチャレンジをしたい」と「今の会社では新たなチャレンジができない」、「次の会社で給料アップしたい」と「今の会社では給料は頭打ち」、「技術コミュニティに魅力を持って…」と「今の会社では技術コミュニティとの接点がない」…などなど。これらは同じことを言っているようなものでも、人にとって片方を書いたらもう片方を想像するような人がいて、とことんネガティブに捉える人は「退職エントリなんて書くものじゃない。前の会社に泥を塗るべきじゃない」といい、業界のポジティブなエネルギーを読んで活力にしたい人は「どんどん退職エントリを書くべきだ」という。私がそれらに対する議論を読んでいて思うのは、ポジティブに読まないと誰もが損だということ。せっかくの文章、ポジティブな側面を引き出して良い気分になりたいではありませんか。
転職理由には病気であるとか介護であるとか年齢であるとかUターンを求められたりとか、純粋な外的要因もあります。それらについては、その話題の詳細を除けば、退職・転職理由としてポジティブでもネガティブでもない単なる偶発的な理由にしかすぎないでしょう。そういうものも日々積み重なっていったり、ある日突然背後から迫ってきたりするもの、それが人生なのだと思います。
もっとも、ウェブ業界は今も人材流動も激しく、かつ成熟してきている側面もあって、転職という手段でも使わないとなかなか昇給したり環境を刷新したりできないという側面もあると聞きます。綺麗事なんて言う気はないけど、お金が無いと人間は生きていけないわけで、そういった問題は前の会社が悪いとかそういうわけではなく、転職をしないと抜本的に解決できない問題があるという業界の側面も、特のウェブ開発業界以外の人には理解して欲しい部分ではあります。特にそれが下っ端であれば「会社を変える」なんて事は会社の大小関係なく無理に近い。そういう意味でも「前の会社に泥を塗る」わけではなく、業界全体への提言という意味合いもあるんじゃないかなっていうのが私の意見。むしろ会社が持つ開発情報の流動性などからか「IT業界の会社は人が固定化している会社こそヤバい」という意見すら聞くくらいです。
ある側面から見れば、退職エントリとか転職エントリなんて、ポジティブでもネガティブでもない、顔の広いエンジニアの同報通信的意味合いしかない、全く大したことじゃないと思います。退職や転職に至った動機といった部分はオマケみたいなもの。少なくないエンジニアは外部での勉強やブログ等でのアウトプットを常にしているからそうなだけで、他の職種でも勉強会やコミュニティに属してアウトプットを常にしている人は、同報通信的意味合いで退職エントリを書くのは自然ではないかと思えます。セルフブランディング的意味合いで退職・転職エントリが語られる事もありますが、退職や転職の事実を書くことが、セルフブランディングになるのかは私にはちょっとよく分かりません。注目される事はわかりますし、目立つという意味では成功しているとは思いますが…。
当然のことながら世界は狭いし、去りゆく会社をことさら悪く書くのは当然良くないことでしょう。また同じ仕事を共にする機会がある可能性だってある。要は単に相性が悪かったのです。会社も人も日々変わります。しかも人と人といった関係性とは若干違って、人対組織というものは大体は互いと互いが関係ない状態で。互いの変化によって、相性の良い時期もあれば相性が悪くなる時期もある。しかもそういった相互関係を調整することは難しい。そういう事を経て、矩形波のように相性の良い時期悪い時期を経る間に、色々なタイミングで転職を考えるかどうかは人それぞれなのだと思います。ある時点で会社との相性が良い社員もいれば悪い社員もいる。仕事内容も待遇もまちまちなのですし、違う価値観を持つ違う人間なのですから、同じ会社の社員でも誰がどういう決断をするかというのは違ってくるのは当然でしょう。
退職・転職エントリ賛成派の中には「前の会社での犠牲者を増やさないために、書くべきことは書きましょう」といった穏健ではないことを言う人もいますが、残る人は何らかの積極的または消極的理由を持って残っているわけで、その人の「去る動機」というのは極めて主観的なものなんだと思います。また、退職・転職エントリを読む側も、そういった「退職者」の書いた文章が主観的なものであることを織り込んで読む必要がありますが、当然ながら万人がそういうことができずに扇動されたりするわけで、退職・転職エントリの扱いの微妙さが取り沙汰されることの一端となっているのでしょう。
とはいえ、多くの人が退職・転職エントリがもたらす効用を有益な方向に活かすようにして、退職・転職エントリはもっと出てきて欲しいというのが個人的な要望です。少なくとも私はそのエントリをポジティブな側面でしか読まないことでしょう。退職エントリで語られた会社に入社する人も在職している人もそれに臆さず、また残る人もそこに書かれた「その人が実現できなかった想い」という、愚痴や不満ではない「問題提起」をより良い方向に受け止めて、その会社を良くしていくという好循環が回れば、もっとIT業界全体が良くなっていくのではないか。私はそう信じています。